そば屋開業ガイド第3章
第3章 ざるそば1,200円を、怖がらない
価格を下げる前に、満足を増やす
飲食店には、「1,000円の壁」という言葉があります。
昼食で1,000円を超えると、高いと感じるお客様が増える。
だから、できるだけ1,000円以内に収めたい。
そう考える店主の気持ちは、よく分かります。
そば屋でも、
「ざるそばが1,000円を超えたら、お客様が来なくなるのではないか」
と不安になる方は多いと思います。
けれど、小さな蕎麦屋が無理に価格を下げると、今度は店が苦しくなります。
価格を下げれば、同じ売上をつくるために、もっと多くのお客様を迎えなければなりません。
お客様が増えれば、そばを用意する量も、仕込みも、接客も、洗い物も増えます。
忙しくなったのに、利益が残らない。
それでは、店を長く続けることが難しくなります。
小さな店は、価格を下げる前に、満足を増やします。
私は、一番シンプルなざるそばを1,200円にしてもよいと思っています。
ただし、ただ値段を上げればよいという話ではありません。
1,200円でも納得していただける内容にすることが大切です。
そのためには、そば一枚を置いて終わりにしないことです。
漬物。
きんぴら。
ポテトサラダ。
季節の煮物。
そばかりんとう。
小さなそばようかん。
最初に、温かいトロッとしたそば湯を出してもよいでしょう。
高級な料理である必要はありません。
ほんの少しの小皿があるだけで、
「そばを一枚食べた」
から、
「気持ちのよい昼食を楽しんだ」
へ変わります。
お客様は、そば粉の原価だけを見て価格を判断しているわけではありません。
店に入り、迎えられ、料理を待ち、食べ終わるまでの時間全体で、
「この価格なら満足した」
と判断します。
原価は、満足をつくるために使う
仮に、そば粉が1キロ1,000円なら、100グラムの粉原価は100円です。
原価を削ることだけを考えるのではなく、無駄やロスを減らし、その分をお客様の満足へ使います。
そばの切れ端を、そばかりんとうにする。
地元で手に入る旬の野菜を、小皿にする。
スタッフが得意な家庭料理を生かす。
高価な食材を増やさなくても、食事全体の価値は高められます。
これは、残り物を出すという話ではありません。
仕入れた食材を大切に使い、別の楽しみへ変える工夫です。
これからも、価格は上がる可能性がある
長らく、デフレによって、価格が大きく変わらない時代が続いてきました。
これからインフレが進めば、そば粉や野菜などの原材料費、人件費、光熱費は、さらに上がっていく可能性があります。
最初から無理に安い価格を付けてしまうと、仕入れ価格が上がるたびに、店の経営が苦しくなります。
価格を上げなければ店が続かない。
それでも、急な値上げはお客様にも負担を感じさせます。
だからこそ、開店するときから、店を続けられる価格を考えてください。
安く見せるための価格ではなく、お客様に満足していただき、店にも利益が残る価格です。
価格を守ることは、店を守ることです。
お客様によって、使える金額は違う
オフィス街で、毎日の昼食として利用される店。
休日に、友人や家族と訪れる店。
旅行中に、わざわざ立ち寄る店。
同じ昼食でも、お客様が使える金額は違います。
休日の外食なら、1,500円、2,000円を払っても、満足できる食事を楽しみたい方はいます。
お客様が不安なのは、高いことだけではありません。
その価格で、何が出てくるのか分からないことです。
写真、内容、量、店の考えを事前に伝え、
「この内容なら食べてみたい」
と思っていただくことが大切です。
価格を100円下げる前に、お客様がうれしいと思うことを一つ増やせないか考えてください。
価格を下げるのではなく、満足を上げる。
「この1,200円で、どう喜んでもらうか」
を考えましょう。
まとめ
飲食店には、「1,000円の壁」があります。
それでも、小さな蕎麦屋が無理に価格を下げると、客数を増やさなければならず、店が苦しくなることがあります。
小さな蕎麦屋は、価格を下げる前に、お客様の満足を増やすことを考えます。
そば一枚だけで終わらせず、小皿、そば湯、季節の一品などを添えることで、食事全体の価値は高められます。
価格を守ることは、店を守ることです。
お客様に満足していただき、店にも利益が残る価格を、開店前から考えてください。
次章では、店長のこだわりをお客様の楽しみに変える考え方をお伝えします。