そば屋開業ガイド第7章
第7章 少人数で、無理なく回る店をつくる
気合いではなく、仕組みで回す
忙しい店が、良い店とは限りません。
店主もスタッフも慌て、料理が遅れ、接客が雑になれば、お客様も落ち着いて食事ができません。
小さな店は、気合いで回さない。
仕組みで回します。
一日に用意できる量。
店主が落ち着いて茹でられる量。
スタッフが丁寧に提供できる量。
まず、自分たちが良い仕事のできる販売数を決めます。
たくさん売ることだけを目標にすると、店の中が苦しくなります。
そばの品質も、接客も、片付けも、店主の気持ちも、少しずつ乱れていきます。
小さな蕎麦屋に必要なのは、無理な客数ではありません。
毎日、良い状態で提供できる数を見つけることです。
必ず売り切れをつくる
蕎麦屋は、事前に提供するそばの数を予想して用意します。
お客様が多く来るかもしれないからと、予定より少し多めにそばを用意する。
この「少し多め」が毎日続くと、大きなロスになります。
売れ残ったそばは、食材の損失だけではありません。
そばを用意した時間も、店主やスタッフの仕事も無駄になってしまいます。
だから、必ず売り切れをつくります。
売り切れは、悪いことではありません。
一日の提供数が決まれば、仕込み量、人員、食材原価、営業時間が安定します。
売り切れた商品を目当てに、
「次は、もう少し早く来よう」
と思ってくださるお客様も生まれます。
売り切れは、店のオペレーションを安定させ、次回のお客様をつくります。
もちろん、早すぎる売り切れが毎日続けば、お客様に不便をかけてしまいます。
何時ごろ売り切れたのかを毎日確認し、提供数を少しずつ調整してください。
用意したそばを、きちんと売り切る。
小さな蕎麦屋の利益は、そこから生まれます。
メニューを一つ増やすと、仕事は一つ以上増える
新しいメニューを加えれば、料理が一つ増えるだけではありません。
仕入れる食材が増える。
保管する場所が必要になる。
仕込みが増える。
盛り付けを覚える必要がある。
食器や洗い物も増える。
メニューを増やすことは、お客様の選択肢を増やすことです。
それ自体は悪いことではありません。
ただし、そのメニューを増やすことで、店全体が回りにくくならないかを考える必要があります。
新しい商品をつくるときは、
今ある材料を使えるか。
同じ器を使えるか。
仕込みを共通にできるか。
注文が集中しても提供できるか。
そこまで考えてください。
売れる商品であっても、厨房を止める商品では、店全体の利益につながらないことがあります。
小さな店では、増やす工夫よりも、減らす工夫が大切になる場面があります。
店主にしかできない仕事へ集中する
店主にしかできない仕事があります。
そばを打つ。
茹で上がりを判断する。
つゆの味を決める。
店の方向を考える。
スタッフへ任せられる仕事もあります。
注文を受ける。
小皿を盛り付ける。
配膳する。
会計をする。
食器を下げる。
店主がすべてを抱え込めば、そばの仕上がりにも影響します。
小皿の盛り付け量。
料理を出す順番。
売り切れたときの案内。
お客様からよく聞かれること。
店主の頭の中にある仕事を、スタッフにも分かる言葉にしておきます。
仕事を任せることは、手を抜くことではありません。
店主が本当に集中すべき仕事を守るための準備です。
夜営業は、昼と同じ形で考えなくてよい
都市部以外の蕎麦屋では、夜営業が弱くなりやすいことがあります。
昼はお客様が来てくださるけれど、夜は来る日と来ない日の差が大きい。
そのような中で、毎日夜まで店を開け、来るか来ないか分からないお客様を待ち続けるのは、店主にもスタッフにも負担がかかります。
夜は、昼とは経営スタイルを変えてもよいと思います。
予約のみ。
コース料理だけ。
一日2組限定。
珍しい日本酒を楽しめる。
地域の小さな宴会を受ける。
そのような形にすれば、事前に人数が分かります。
仕入れも、仕込みも、スタッフの配置も整えやすくなります。
食材のロスも減らせます。
何より、納得のいく丁寧な料理を提供しやすくなります。
夜営業は、来るか来ないか分からないお客様を待つ、守りの営業でなくてもよいのです。
常連のお客様や、店の考えに共感してくださる方に向けた、一ランク上質な攻めの営業にできます。
小さな蕎麦屋だからこそ、昼と夜を同じ形で考えすぎないこと。
時間帯ごとに、無理なく利益が残る営業の形を設計することが大切です。
スタッフが気持ちよく働ける店は強い
スタッフは、料理を運ぶだけの人ではありません。
お客様が最初に顔を合わせ、最後に会計をする相手になることもあります。
スタッフの表情や言葉から、お客様は店の印象を受け取ります。
なぜ、この料理をすすめるのか。
どんなお客様に喜んでほしいのか。
店の考えを、スタッフにも伝えてください。
スタッフが気持ちよく働いていれば、その空気はお客様にも伝わります。
高価な設備を入れるよりも、スタッフが気持ちよく働ける環境をつくる方が、店に大きな利益をもたらすことがあります。
忙しい時間ほど、電話、予約受付、持ち帰り対応など、余計な仕事を減らします。
店主とスタッフが落ち着いて働ける店は、お客様にとっても居心地のよい店になります。
仕事を増やすより、減らす工夫をする。
それが、少人数で回る店の強さです。
まとめ
小さな蕎麦屋は、気合いで回すのではなく、仕組みで回します。
一日に用意できる量、店主が落ち着いて茹でられる量、スタッフが丁寧に提供できる量を決めてください。
予定数をきちんと売り切ることは、ロスを減らし、仕込み量や人員、営業時間を安定させます。
メニューを増やすと、仕入れ、保管、仕込み、提供、洗い物まで増えます。
夜営業は、昼と同じ形で考える必要はありません。
予約のみ、コース料理、一日2組限定、地域の小さな宴会など、事前に人数が分かる形にすれば、食材のロスを減らし、丁寧な料理を提供しやすくなります。
店主にしかできない仕事へ集中し、スタッフが気持ちよく働ける仕組みを整えることが大切です。
次章では、地元のお客様との関係が、店を少しずつ遠くへ連れていく流れを考えます。